【台湾人材市場調査レポート】 現地企業訪問から見えた課題と可能性
皆様、こんにちは。株式会社レキサンの玉城です。
2024年11月26日から28日までの3日間、台北市と新竹市において台湾の人材市場調査を実施してきました。今回は、その調査で見えてきた台湾の最新事情についてお伝えしたいと思います。
調査の背景と目的
<TSMCの張忠謀大楼(Morris Chang Building)前にて>
台湾の人材市場は、急速な経済発展と産業構造の変化により、大きな転換期を迎えています。この変化を正確に捉えるため、台湾における人材紹介市場の現状把握とレキサンとしての人材紹介事業の進出可能性の予備調査を目的に、様々な企業や機関を訪問させていただきました。
調査では、則和企業管理顧問有限公司(台湾の人材紹介企業)や台湾山葉智能機器(ヤマハの製造子会社)といった現地企業から、パソナなどの人材紹介会社、さらには沖縄県産業振興公社台北事務所まで、幅広い方々からお話を伺うことができました。また、TSMCの工場集積地域も視察し、台湾の産業の熱気も肌で感じてきました。
転換期を迎える台湾の人材市場
<TSMC(台湾積体電路製造)のイノベーション博物館前にて>
台湾の人材市場で最も印象的だったのは、その力強い成長です。給与水準は毎年4-5%も上昇しており、日本の2%台と比べるとその差は歴然です。特に半導体関連のエンジニアの給与は驚くべき水準で、ICエンジニアなどは初任給でも年収100万元(約450万円)に達することもあるそうです。
また、台湾は深刻な少子化に直面しており、出生率は0.86と日本の1.26をさらに下回る水準にあります。この人口動態の変化は、人材市場にも大きな影響を与えています。
人材市場の変化を象徴する事例として、ある管理職の方のキャリアパスが印象的でした。台湾の大学を卒業後、イギリスでマスターを取得し、中国で不動産開発の経験を積んだ後、台湾に戻って消費者行動分析や広告効果測定を主な事業とするグローバル企業を経て現在はコンシューマープロダクツ事業を展開する日系企業で活躍されています。年収150万元(約675万円)の現職に対し、ヘッドハンター経由で200万元(約900万円)という好条件のオファーがあっても、会社の安定性を重視して現職に留まることを選択されたそうです。
一方で、日系企業の給与水準は、一般的な初任給が月給3万5千元(約16万円)程度となっています。最も高い企業でも月給5万元(約23万円)程度で、現地の相場からすると残念ながら見劣りしてしまう状況です。就職先として日系ブランドは徐々に陰りをみせているようです。ただ、転職時に日系での就業経験は一定程度評価の対象になるようで、キャリアに日系企業での経験を加える目的で日系を志望する方もいるようです。製造業、介護、ホテル業では人材不足が深刻で、ASEAN諸国からの採用も活発に行われています。
台湾の人材紹介市場の特徴とは?
<台湾高鉄(Taiwan High Speed Rail)の新北駅にて>
台湾の人材紹介市場は、実に明確な棲み分けがされていることがわかりました。求人広告媒体の「104」(掲載料月額3000-4000元)、「1111」があり、日系企業向けにはパソナ様、パーソル様、リーラコーエン様が主にジュニア層の紹介を手がけています。最近ではマイナビ様も活躍されているようです。
興味深いことに、外資系を中心とした英語を使用する市場は日系市場の約3倍の規模があり、この分野ではアデコ様等の外資系人材紹介・ヘッドハンティング企業が強みを持っています。ITやベンチャー・スタートアップを中心として台湾企業向けにはCakeやYouratoといった媒体・人材紹介サービスを展開しています。
まだまだ調査が必要ですが、現時点では、我々レキサンが得意としている「経営側にアプローチし、ミドルレイヤー以上の人材を紹介するという領域」は空白地帯になっているのでは?という仮説を持っています。これは、沖縄での創業時にも代表の島村が感じていたことと似ています。
日系企業の現場で見えてきた課題と可能性
<沖縄県産業振興公社台北事務所にて>
日系企業の運営形態について、とても興味深い発見がありました。多くの企業では、事業部ごとに予算を持ち、数字さえ達成できれば日本側からの細かい介入は少ないそうです。日系企業でも台湾の実務の中心を握っているのは台湾人なのですが、これは、駐在員が3年程度で交代するため、事業の継続性と現地での関係構築には台湾人スタッフが不可欠だからです。
部門による人材構成の違いも感じました。。特に印象的だったのは、製造業においては研究開発部門ではほとんど日本人が中心で、台湾人の採用がほとんど行われていないという点です。一方で製造現場では台湾人が中心となっており、この対比は日系企業の人材戦略における特徴的な傾向といえるかもしれません。
また、若手の採用と育成には日本にはない台湾の課題があります。台湾では男性は兵役が4ヶ月から1年あり、大学生は卒業するまで就職活動ができません。そのため、新卒での就職活動はほぼ行っていないようです。企業側はインターンを活用する工夫をしています。ある企業では、最初は日本語学科の学生を紹介されたことをきっかけに、その後は人脈を通じてインターン採用を継続しているそうです。
また、業界のネットワークとして、工商会という組織があり、約300人の日台企業トップが集まる重要な場となっているそうです。台北の日本人コミュニティは、多種多様なコミュニティが存在し、特に趣味系の集まりが多いとのこと。台北の日本人社会は比較的狭く情報が流れやすい特徴があり、居住区は世帯者と単身者でくっきりと分かれるなど様々なことが把握しやすい状況にあるようです。
これからの台湾市場、その可能性を探る
現地を調査してみて、レキサンが台湾で展開する場合に特に重要だと感じたのは、「なぜ台湾なのか」「台湾で人材紹介を通じて何をしたいのか?」という想いです。「ちょっと出てきた日系企業」と思われてしまわないように、本気で台湾に貢献する気持ちのある企業として認めてもらえるかどうかが、成功の鍵を握っているように感じました。
台湾から見た沖縄についても学びがありました。台湾から見ると、沖縄は「最も近い海外リゾート地」という位置づけで、台湾人の海外旅行先として「日本かそれ以外か」というほど日本が選ばれているそうです。実際、沖縄県産業振興公社台北事務所では、観光誘客やスポーツ交流、物産展開など、多岐にわたる交流促進を行っています。
ビジネス面における沖縄と台湾の関係性では、現在、物産系、レンタカーサービス系など沖縄企業が現地で法人登記をしています。しかし、多くの沖縄企業はリスクの観点から独自で現地法人を設立するのではなく、現地パートナーと組むアプローチを選択しているようです。
今後も継続的に調査・検討を続け、台湾進出の可能性を探っていきますが、台湾企業へのアプローチも含めて中長期的展開を考えた場合、台湾出身の方も立ち上げメンバーに加えるのは大事であると感じています。
また、参考までに、台湾への投資促進を支援するiTOという組織があり、投資相談から行政手続き、産業マッチング、投資環境の改善まで、ワンストップでサポートを行っているそうです。
まとめ
今回の調査を通じて、ミドル層以上の層の転職支援という領域において、新しい価値を提供できる可能性を感じました。
沖縄と台湾の関係性は、単なるビジネスを超えた可能性を感じさせます。観光やスポーツ交流など、すでに様々な形での交流が進んでおり、これらの基盤の上に新たなビジネスチャンスを築いていけるのではないでしょうか。
重要なのは、やはり台湾の視点に立った価値提供と、本気で貢献する姿勢を示すことです。一時的な進出や表面的な関係構築ではなく、真摯に台湾と向き合い、共に成長していく姿勢が大事であると感じました。
台湾と沖縄の架け橋となれるよう、市場調査や情報発信を続けていきたいと思います。みなさまからのご意見やご質問もお待ちしています。