リゾート開発とサステナブル観光が交錯する沖縄の不動産最前線
2025年に入り、コロナ禍からのインバウンド需要が本格的に回復し、沖縄のビジネスシーンも新たな成長局面を迎えています。とりわけ不動産・リゾート開発とサステナブル観光の両輪が注目度を増しており、地価上昇やホテル建設ラッシュ、サンゴ礁保護や環境配慮型の開発が同時進行で進む状況です。
本記事は、弊社コンサルタントの長濱監修のもと、最新の統計データや専門家のレポートをもとに不動産市場の動向やサステナブル建築の取り組み、地域活性化との関係、そして転職市場への波及効果を解説します。
沖縄不動産市場の現状
地価上昇率と投資マインド
沖縄県では、リゾート地として人気の高いエリアを中心に、長期にわたる地価上昇トレンドが続いています。特に恩納村の真栄田地区では、2024年9月時点の調査で前年対比+29%という顕著な伸びが報告されており、移住需要とリゾート開発需要の高まりが主要因とされています。海岸線1km圏内の特定地区では、賃貸物件家賃が2年で約1万円も上昇しています。 一方で、同じくリゾート開発が進む今帰仁村については、同時期で+9.7%というデータが示されています。今帰仁村では、2025年夏のテーマパーク「ジャングリア」開業を見据えた需要拡大が見込まれており、施設従業員用のアパートなどの住宅需要に加え、開業を見据えた観光関連施設など、業務用地の需要も高まっています。ただ、現行データの範囲では当初想定よりも緩やかな伸びにとどまっているのが実情です。
また、那覇市内でも特におもろまちエリアが高級マンションの建設ラッシュなどにより県内最高価格帯を記録し続けており、那覇市全体としても地価上昇が続いています。沖縄の不動産市場はコロナ禍を含む過去十数年にわたって連続して上昇傾向にあることが確認されており、観光需要の回復がさらなる上乗せ要因として働いていると見られています。
投資マインドの高まりに関しては、国内の不動産関連メディアや専門家が「全国的にもトップクラスの地価上昇が投資家の注目を集めている」と伝えており、リゾート開発の進展に伴い賃貸・売買双方の需要拡大が期待されています。
[参照:FNNプライムオンライン追跡ニュース 記者の目 、イット!、沖縄県 令和6年地価調査結果概要、 沖縄タイムス]
リゾートホテル建設ラッシュ
2025年は県内各地で複数の新規ホテル開業が予定されており、特にハイクラス層をターゲットにしたリゾートが注目されています。
宮古島「ローズウッド宮古島」
2025年3月の開業を予定しており、宿泊価格が最低20万円代(税込)からの高級ヴィラを備えるリゾート計画が進行中です。欧米やオーストラリアなどの富裕層、さらに国内ハイエンド顧客を取り込むべく、“プライベートプール付きスイート”や“オールインクルーシブ”のサービスを展開。宮古島の豊かな自然を活かしつつ、高級感を前面に打ち出しています。
北部エリア「ジャングリア沖縄」
本部町から今帰仁村にかけて進行中のテーマパーク計画に合わせ、リゾートホテルや商業施設が複数立ち上がりを予定しています。2025年春には「BATON SUITE 沖縄古宇利島」が全室スイート仕様で開業予定で、周辺の海洋アクティビティや観光ルートとの連携が注目されています。
ソネバ(Soneva)の日本初上陸計画
モルディブやタイで高級エコリゾートを展開し、環境保護とラグジュアリーを両立させたブランドとして知られるソネバが、沖縄県の具志川島で2029年に日本初開業予定です。 「再生可能エネルギー」「脱プラスチック」「ゼロエミッション」など環境保護への取り組みを実施しており、沖縄での新規プロジェクトにも同様のコンセプトが適用される可能性があります。
これらのハイエンドホテルは建設資材や人材需要を高め、不動産市況を押し上げる要因となっています。 不動産価格やリゾートホテル建設の勢いが沖縄の魅力を高める一方で、今求められているのは環境にも配慮した開発の在り方です。次の章では、持続可能な建築と観光の取り組みを詳しく見ていきます。
[参照:琉球新報]
サステナブル建築と環境保全の最前線
スマート建築・ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の導入
台風や豪雨などの自然災害リスクと、豊富な日射量による太陽光発電ポテンシャルをあわせ持つ沖縄では、近年ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やスマート建築が注目を集めています。建物自体の省エネ性能を高め、再生可能エネルギーを併用して建物が1年間に使う電気や冷暖房などのエネルギーと生み出すエネルギーの合計がほぼゼロになる工夫をした建物のZEBは、台風対策としての強度設計や断熱性能強化とあわせて導入しやすいのが特徴です。例えば、沖縄県の公共建築物のZEB化については「久米島町」と「宜野座村」が自治体で登録されており、2030年までには新築建築物の平均でZEBを実現するというロードマップも示されています。
特に、高級リゾート施設や大型商業施設では、全国的にも海外からの投資や宿泊客が“ESG(環境・社会・ガバナンス)”を重視する傾向が強いため、ZEBの導入はブランド価値を高める要素としても注目されています。地元建設会社と琉球大学の「亜熱帯気候に適したゼロエネルギーハウス(ZEH)」研究開発プロジェクトでは“強風対策+省エネ設計”を目指し、沖縄特有の気候に合わせてランニングコストの低減も同時に実現可能な住宅モデルの開発が進められています。
サステナブルツーリズムとの融合
沖縄の観光業は県内GDPに大きく貢献しており、経済成長と環境保護をいかに両立させるかが喫緊の課題です。近年は、観光事業者や地域が中心となり、サンゴ礁保全プログラムやビーチクリーン活動、プラスチック削減、在来種を学ぶエコツアーなど、さまざまなサステナブル観光メニューが拡大しています。
こうした流れの中で、OIST(沖縄科学技術大学院大学)のサンゴプロジェクトはサステナブルツーリズムの好例として注目されています。ゲノム情報を活用した最先端の研究と地域連携を組み合わせることで、サンゴの養殖と移植を科学的に進める取り組みです。沖縄のサンゴ礁はダイビングやシュノーケリングなどのマリンレジャーの要でもあり、プロジェクトの進展は観光資源そのものを将来にわたって維持するうえで重要な意味を持ちます。
このプロジェクトには、地元企業や団体がスポンサーや寄付という形で参加しており、その一つが弊社レキサン(Lequison)です。弊社は地域社会の発展につながる貢献活動の一環としてOISTサンゴプロジェクトを支援しており、「地元沖縄の環境保全に貢献したい」という想いをかたちにしています。宿泊客や観光客が体験プログラムや募金活動を通じてサンゴ保護の一端を担うことができる点も大きな魅力で、エコロジーと観光ビジネスの融合を象徴するモデルケースといえます。
さらに、リゾート開発事業者がこうしたサンゴ保全やエコ活動に力を入れることで、訪問者に“環境に配慮するリゾート”としてのイメージもアピールできるようになりました。ホテルやツアーで行うサンゴの植え付け体験やビーチクリーンのイベントでは、環境保護への積極的な参加を通じて「もう一度ここを訪れたい」と思わせる要因にも繋がっていると考えられます。
サンゴ保全のように地域の自然環境を最優先に考える取り組みは、長期的に沖縄の観光産業を持続可能にするだけでなく、地元住民や企業の意識改革にもつながります。
こうしたサンゴにまつわる話題としては、沖縄の地域特性ゆえに個人の活動が周囲を巻き込みながら大きなプロジェクトへと発展していく事例も多数あり、たとえば弊社コンサルタント長濱の友人でもある株式会社マナティの金城由希乃さんは「サンゴに優しい日焼け止め」という商品を開発・企画販売し、それをきっかけに現在では地域を巻きこみながらクリーンアッププロジェクトを持続的に行っています。また、長濱が業務上でもやりとりをさせて頂いている友寄隆秀さんも、精力的に仕事をこなしつつ「ゴミがすべての始まりだった」という任意ボランティア団体を立ち上げ、大学時代からビーチクリーン活動を続けており、今では起業して株式会社首里石鹸の採用人事部長を担いながら沖縄県内外企業の外部HRBPとして採用・人事領域のアドバイザリーを務めています。こうして世界でもトップクラスに美しい「海」「サンゴ」に対して想いを持つ人々とプライベートでも繋がりながら活動できるのは、まさに沖縄ならではといえるでしょう。
今後は、研究機関・行政・企業・住民が一体となり、環境保護と経済発展が両立する“サステナブルツーリズム”をさらに推進していくことが期待されます。
次に、これらリゾート開発やサステナブル観光推進により、日本だけでなく世界からの需要も地域活性化に波及している様子と、一方で考えられる課題についても確認していきましょう。
[参照:一般社団法人沖縄CO2削減推進協議会 ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)基礎講座)、Panasonic 【業界トレンドNEWS】56号 電材NEWS 琉球大学ZEHプロジェクト]
リゾート開発と地域活性化の両立
離島への波及効果
2024年のクルーズ船寄港実績が合計約590回にも上り、2025年も引き続き多くのクルーズ客が石垣島や宮古島、久米島を訪れる見通しです。
さらに、全国的なワーケーションブームに伴い、空き家再生を活用した宿泊施設やコワーキングスペースが離島を中心に増加しています。豊かな自然環境を楽しみながらリモートワークを行いたいというIT系人材やクリエイターが移住・長期滞在することで、地域経済やコミュニティの活性化につながっている事例もあります。
環境アセスメントや住民合意の重要性
大規模開発が進む一方で、沖縄の貴重な自然環境を守るためには沖縄県環境影響評価条例に基づくアセスメントの実施が必要とされています。特にサンゴ礁や海洋生態系が豊富なエリアでは、排水や埋め立ての影響を慎重にチェックし、開発規模や手法の調整も不可欠です。
また、住民説明会や合意形成のプロセスを軽視すると、開発による経済効果が地元に十分還元されないという不満が生じる可能性も考えられますが、反対に地域住民やNPOと協力し、地元ならではの体験プログラムや文化交流イベントを開発しながら高付加価値な観光コンテンツとして評価されているケースもあります。 例えば、「チーム美らサンゴ」では沖縄県恩納村でサンゴ保全活動を行っていおり、この活動には県内外の企業、恩納村漁業協同組合、環境省、沖縄県、恩納村などが協力しています。ダイバーやダイバーでない人まで一般の参加が可能となっており、このように地元の組織や自治体などと連携することでうまく観光推進を行っていくことが重要と言えます。
最後の章では、こうした開発やサステナブル観光がどのように人材市場へ影響し、雇用や転職の機会を生み出しているのかを探ります。
[参照:沖縄タイムス 沖縄県内へクルーズ船寄港 2024年は590回見込み 過去最多だったコロナ前の2019年を上回る、チーム美らサンゴ]
人材・転職市場の動向
不動産・建築業界での求人拡大
リゾートホテル建設や関連インフラ整備にともない、建築業界の人材需要は依然として高水準です。また、全国的にもZEB設計や専門的な知識を持つ設計者が少なく、設計業務や工事監理において課題があることが指摘されているため建築業界での求人は引き続き求められていると同時に専門的なポジションの需要も高まっていると考えられます。
観光業×ESG推進のサスティナビリティな求人拡大
観光企業やホテルチェーンが、海洋プラスチック問題やCO2削減目標など、社内外のステークホルダーに向けて環境保全アクションをアピールする風潮が見られます。例えば、沖縄プリンスホテル オーシャンビューぎのわんでは、環境・社会への配慮がなされた建物として「DBJ Green Building」認証を取得しており、同ホテルでは地産地消を目的とした県内青果市場からの食材調達やバイオマスアメニティーの使用など、環境に配慮した取り組みを積極的に行っています。
海外からの宿泊客は、環境配慮やCSR(企業の社会的責任)に敏感な層も多く、サステナブルな取り組みが差別化要因として機能する可能性は十分考えられます。そういった専門的な内容に対応できる人材の求人募集も広がっており、新たなポジションの確保が進んでいます。
全国転職市場と沖縄の魅力
コロナ禍を経てリモートワークが一段と普及したことで、首都圏や関西圏など都市部の企業に所属しながら沖縄へ移住・長期滞在する“デュアルライフ”も注目されています。また、沖縄県の労働市場に関するりゅうぎん総合研究所の資料によると、専門的・技術的職業の求人が増加しており、特にITリテラシーのある人材育成に取り組む必要性が指摘されています。
沖縄独自のリゾート環境や豊かな自然は、若年層やUターン希望者のみならず、ミドル層・シニア層のセカンドキャリア先としても関心が高まっており、今後はスタートアップの動きも含めて多様なビジネスが生まれ、県全体の産業構造がアップデートされる可能性も期待できそうです。
[参照:文部科学省 学校施設のZWB化手引き、沖縄タイムス 沖縄の建設業、担い手不足が深刻 情報管理センターが課題報告 離職者防止の対応求める、りゅうぎん総合研究所 沖縄県の労働需給問題について]
まとめ
沖縄の不動産・建築業界や観光業界では、技術者のみならず環境・エコに関する専門的なキャリアをお持ちの方も活躍の場が広がっています。さらに、リモートワークの普及により、UIターン転職についても柔軟な働き方が広がりつつあります。
弊社レキサンでは、こうした最前線の動きを日々追いながら、求職者の皆さまに最新の求人情報やキャリアサポートを提供しています。
沖縄へ戻って働きたい方、沖縄へ移住して新たなステージに挑戦したい方など、少しでも興味をお持ちの方はどうぞお気軽にご相談ください。
また、今回記事でご紹介したOISTのサンゴプロジェクトについての関連ページも合わせてご覧ください。
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